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GO MAD 日記日記とか雑文とかもろもろPAGE | 17 16 15 3 1 5 14 13 12 10 9 | ADMIN | WRITE 2010.01.01 Fri 10:34:16 お約束だけできぬ人「ああ、髪を結っているのですね」 「だから、女の身支度を勝手に覗くなって言わなかったかい、このトンチキが」 いつものように無遠慮に庭から家に上がりこむ男に、女は盛大にため息をついた。 髪を梳いていた柘植の櫛を傍らにおき、襦袢のあわせをそっと直す。 「あなたが髪を結っている姿は、たまらなくそそりますね」 「口説き文句もなっちゃいないね、もっと気の利いた表現をしてご覧よ」 冷たい言葉にも、男はめげずに今に上がりこむ。 もう慣れっこの女は、もう一度軽くため息をつくと櫛をとった。 男はそれに興味を惹かれたように、子供のようにねだる。 「私に、髪を梳かせてもらえませんか」 「旦那でもない男に髪を触らせるほど、安くはないつもりだよ」 女は振り向きもせず、そう切り捨てた。 瞬間、太くたくましい腕が、女の体を捕らえた。 その加減を知らない強さに、息を呑む。 首筋に熱い熱を感じて、体が震える。 「……なんのつもりだい」 「どうして、振り向いてくれないんだ。好きなんだ。あなたが好きなんだ」 つたなくそっけない、けれどそれゆえにまっすぐで飾りない言葉。 身を引き絞られるような痛みが、女の胸を指す。 一瞬、前をむいたまま男に見えないように唇を噛む。 「……とおも年下の男にうつつを抜かす囲い者か。そりゃ大層な見ものだね」 「そんなの関係ない!俺があなたを守る!」 「そういうのは、自分で稼げるようになってからお言い。坊や」 男の腕に、さらに力がこもる。 けれどやはり、女は前を向いたまま。 「……あなたの心の氷室の雪は、いつか世に出て溶けるでしょうか」 昔馴染んだ、言葉遊び。 女はそっと、笑う。 「本当に困ったお坊ちゃんだよ。無理を通せば道理がひっこむのかい?」 「……あなたはひどい人だ」 「ああ、そうだよ。とっとと愛想尽かしちまいな」 ああ、でも、本当に。 嫌なお方の親切よりも、てなもんだ。 PR TrackbacksTRACKBACK URL : CommentsComment Form |